2012
Jan
7day
いただきもの紹介2
まだまだつづくよ頂きもの!
お世話になりまくっている夕凪さんより
ハコアリの二次創作小説いただきました!
ありがとうございます!
(^q^)
二次創作小説も何もハコアリ本編がまじめに始まってない状況でまさかの!!
夕凪さんは主にハコアリの辞書に載せてる設定を元に書いてくださったのですが……
……何が凄いってあれだけの情報量で書こうと思ったことですよね……。
実はこちらの作品は9月にいただいていたのですが、この時に送っていただいたものから
設定の矛盾などを私が指摘して、更に書きなおしてくださったものになります。
というのも夕凪さん自身が世界設定を大事にしてくれる方でして、
「設定の矛盾などあれば書き直したい」とお申し出下さりまして……!
まぁハコアリは公開していない情報が多すぎるので
矛盾が生まれてしまうのは必然と言うか……
……すみません本編頑張ります。
あともらったの9月だから軽く4ヶ月は経ってるんですが
公開が遅くなったのはこはのメールの返信が遅かったせいです←
夕凪さんはすげえ筆早いんですよ! ですよ!
ではでは続きから載せております。
内容はロイエという国の郵便ギルドのお話です。
ロイエはエトノさんの出身地です。
只今絶賛戦争中(しつつも一時停戦中)の国なのでわりと空気が物騒です。
メインキャラはでて来ないのですが
ハコアリの世界にある一つの物語として楽しんでいただければ嬉しな、と思います。
ではでは続きからどぞ!
ロイエのとある配達屋の一日
――今日も、アルカの空に日が昇る。
夜を象徴する限りなく黒に近い濃緑の空は、日の出と共に朝焼けの赤紫を映し、やがて鮮やかな若緑色へとその姿を変えてゆく。
鳥のさえずりが朝を告げ、人々は一日の仕事を始める。
そんな、どこにでもある朝の姿は、ここ、都市国家ロイエでも同じ。
「おーし。掃除は終わったな?」
「親方! おはようございます」
――都市国家ロイエの集荷所。
ここでは、集荷所に住み込みで働いている弟子たちが朝の掃除を終えた後、ギルドに属する各配達屋の親方たちがそれぞれの弟子たちの前で一日の訓示と連絡をするのが慣例となっている。
それはここ、ラッセン配達屋でも変わりない。
親方である、ディートリヒ・ラッセンは、自分の前に並んだ6人の弟子を前に、いつもと変わらぬ言葉を口にする。
「俺から言うことはいつもの様に一つだけ。仕事は正確に、だ。
いつも言ってることだが、俺達の仕事は誰かの意思を運ぶ仕事だ。それらは正しく届いてこそ意味を成す。
だから、決してミスはするな」
それは、この配達屋が初代から連綿と受け継いできた、変わらぬ心構え。
自らは情報を扱うもの。
自らは言葉を扱うもの。
自らは想いを運ぶもの。
――ならば、その過程に一切の誤謬は許されない。
信じて託される手紙。信じて託される荷物は、必ず送り主に届ける。
配達屋として、基本にして絶対の理念。
「ただ正確を心得ろ。そして気まぐれリリックたちにも言い聞かせろ。――以上だ」
「はい!」
「よし。では今日の連絡事項だが、しばらくは季節の便りが出る時期だ。いつも以上に忙しいだろうが、だからこそ正確さを心がけろ」
「はい!」
「よし。では仕事始め!!」
威勢のいいディートリヒのかけ声と共に、ラッセン配達屋は、今日の業務を開始した。
*
朝は、手紙の時間だ。
朝昼と仕事に時間を費やす人々が手紙を書くのは、決まって夜。
私信の類などは、揃ってその大半が朝のうちに出される。
例えばそれは、友人間の手紙であったり、遠く離れた婚約者への恋文であったり。
そういうものは長く続くものが多いので、自然とその手紙を持ってくる者は決まってくる。例えば――
「よ、配達屋、これよろしく頼むわ」
「おうファビオか」
そう言って、銀貨と一緒に手紙を差し出したのは、ディートリヒの知り合い中でも特に気安い顔見知り。
長くロイエに住んでいる学者先生の使用人で、筆まめな先生の手紙をしょっちゅう持ってくるので、よく世間話に花を咲かせる相手だ。
「今日はどんな手紙なんだ?」
「ああ。ファランドラに居る先生の娘さんに季節の挨拶をな。ついこの間に孫が生まれたらしく、娘さんに早く会いに来て欲しいと事あるごとに言ってるよ」
「そりゃあ大変だ。お孫さんに会えないと、先生さん、そのうち寂しくて死んじまうんじゃないか?」
そんな冗談を飛ばしながら、ディートリヒは手紙を受け取る。
だが、対するファビオは小さく笑うだけで、苦々しく返す。
「ま、今の状況だと、会うのはちょっと難しいかもしれねえけどな……」
――現在、この都市国家ロイエは、機械国オルフィリカと一色触発の状態にある。
ついひと月ほど前に大きめの戦があったばかりで、つい最近も暗殺騒ぎがあったりと、街中の人々もどこか普段とは異なる熱気がある。
「やはり危険、か」
「魔獣王の名の下に戦うロイエが、異教徒共に負けるはずはないが……それでも、戦争状態の国に家族は呼べんだろう」
「そうだな……」
「今回はとことんまで行きそうだしな。しばらくは、会えないだろうな」
「先生も気の毒にな……」
「状況が状況だから仕方ないさ……じゃあ、手紙は確かに預けたぜ」
「なんだ、今日はサボってかないのか?」
「今日はエニルの店にレニンネルドの実が入荷する日なんだよ。売り切れる前に買って帰らねぇと先生にどやされるんだよな」
レニンネルドの実は、最近ロイエで流行り始めた果物だ。
ジュースにすると程よい酸味で飲みやすく、疲れに良く効くと風のうわさで広まり、入荷すればたちまち売り切れるほどの人気の品。
エニルの店はファランドラで品種改良された良品を扱っており、学者先生の好物でもある。
今回の入荷の情報も、エニルに常連のよしみでファビオが事前に教えてもらったのだろう。
「なるほど。なら一刻も早く行くべきだな。隊商が着くのは昼前か?」
「ああ。多分耳聡い奴らはもう並んでやがるぜ。ホントだったらもうちょいダベっていたかったが、今日はここまでだ」
「おう、さっさと行ってこい」
ディートリヒがそう言うと、ファビオは「じゃあな」と手を振って走り去った。
それと入れ違いに事務所へ現れたのは、また見知った顔。
「こんにちはディード。ご機嫌いかが?」
「おお、アンナじゃねぇか。今日は何の手紙だ?」
彼女はとある商人の家に出入りする侍女で、そこの一人息子からの手紙を持ってくることが多い。
「この前の、トライデル王国の貴族の娘さんから返信が来ないから居ても立ってもいられずに、だそうですよ」
「前の娘さんにもそうやって次々手紙を送りつけて振られたんじゃなかったか……?」
「私もそうはご忠告したのですが……『僕のメリーヴェルが手紙を返さないなんて有り得ない! きっと何かあったはずだ!』と聞く耳を持ってくださいませんで……」
「こんな物騒な時期でもお前んとこのご主人は相変わらずだなぁ……」
「ええ、相変わらずで……」
「何ならそれ、こっちで処分しとこうか?」
「いえそれには及びません。万が一ご主人様に気づかれても厄介でしょうし、ご主人樣のこのヒステリーを知らぬまま万が一結婚でもされれば、お相手の女性が不憫でなりません」
「……なるほど」
「ということでよろしくお願いします」
そう言って彼女は丁寧に手紙を差し出し、その上に銀貨を置く。
ディートリヒは苦笑いをしながらそれを受け取り、
「わかった。任せとけ」
そう言ってそう言って手紙を掲げてみせた。
*
午前中は大体ファビオやアンナが持ってきたものと似たような感じの手紙が多く届けられたが、午後からは届けられる物の毛色が変わる。
午前の書類仕事の結果、出来上がった書簡が届けられるのだ。
商人達の契約書の類や、行政機関からの各方面への事務手続きに関する書簡など。
例えば市の役人が、
「市長からだ。トライデル国内の各領主へ、季節の挨拶を」
そう言って封筒の束をまとめて渡しに来たり、
「『街道』の警備に関する問い合わせの書簡を、トライデル軍へ届けていただきたい」
「ベルドロストの司法長官へ、この論文を届けて欲しいのだが」
「ヴラスシュタイン候爵へ、契約書を送りたい」
このように、朝とは打って変わって重要なものが多くなる。
万が一にも郵便事故は起こせないものばかり。
午後の便は、手紙を任せるヴェルデルフェルパの選択にもひときわ慎重になる。
今日は、ディートリヒはその仕事を、四番目の弟子であるマルクに任せることにした。
「よし、じゃあやってみろ」
「はい!」
仕分け場で宛先ごとに大別された手紙の入った箱を、自分が適任だと思ったヴェルデルフェルパの獣舎の前に置いていく。
トライデル首都トルク行き、ファランドラ首都ロイ・ジーク行き、学都ベルドロスト行き……etc.
マルクは最近ようやく仕分けを真っ当にこなせるようになってきたばかりだったが、その選別は迷いながらではあるが、ディートリヒの目には、それほど間違った選択をしているようには見えない。
……ふむ。なかなか良い線を行くな。
ディートリヒは彼の選別眼をそう見る。
基本的に私信は経験が浅かったり、やや不安な個体に任せ、信頼できる個体の一部は、火急の事態に備え牧場内で待機となるのが通例だ。
午後の便の発送は、できるとできないの狭間の選択。危険域ギリギリの個体は朝のうちに出払っているので、まだ難易度は低いが、それでもどの個体を待機させ、どの個体を送るかは一朝一夕には選べるようにはならない。
そこでは、任せるヴェルデルフェルパの実績と経験、そしてその日の体調など、細かい部分まで見て、慎重に慎重を重ね、決定しなくてはならない。
例えば、どれだけ優秀な成績を残しているヴェルデルフェルパでも、その日の機嫌が悪いだけで途中で全て投げ出して行方不明になることもある。
それを見分けるのが、配達屋の仕事の究極であり、容易に行かない部分である。
恐る恐るながら、しかしマルクは、無事仕分けを終えた。
それから、恐る恐るといった様子で親方の方へ振り向き、
「……どうですか? 親方?」
そう問いかける。それに対し、ディートリヒは、
「ああ、こんなものだろう。あえて言うなら、市長からの親書は他のトライデル行きの便と統合してミルリィに任せても大丈夫だろう」
そう、評価を下した。
「……はい! ありがとうございました!」
及第点の評価にほっとしたのか、マルクはわずかに表情をゆるめ、しかしきっちりとディートリヒに礼をして、指摘された部分を修正し、
「仕分け、終了しました!」
そう、ハッキリと宣言した。
「ご苦労。……じゃあ俺は事務所に戻っているから、あとはアレックスの指示に従って発送にかかれ」
「はい!」
マルクの元気の良い返事を聞きながら、ああ自分もあんな時代があったな、と柄にもなくぼんやりと思いながら、ディートリヒは事務所へ向かって歩き出すのだった。
*
「親方、ちょっと……」
ディートリヒが事務所に戻ると、弟子の一人、ヤーレンがこちらに向かって小走りで近づいてきた。
「どうした、ヤーレン」
「窓口に、ちょっと厄介なのが来ていて」
ヤーレンにそう言われて窓口に出向くと、そこは、侍女服を来た女性が立っていた。
どこの侍女だろうか、と思いながらカウンターに近づくと、
「おじさん。おてがみ、おねがいします」
不意にひょこっと飛び出した顔が、そう言った。
よく見れば、それは年の頃5、6歳ほどの幼い少女。
パッと見にも身なりはよく、いいところのお嬢様だということはすぐに解った。
その彼女が、侍女の手を借りて差し出すのは、『手紙』。
裸の便箋に、滲んだインク。
おそらく文字を覚えたての少女自身が書いたであろう――『手紙』
「これ、おかね。だから、おねがいします」
そう言って、少女は懐から何かを差し出した。
それは小さな……しかし、一目見ても高価と解るネックレス。
侍女は慌ててそれを引っ込めさせ、代わりに懐から銀貨を取り出し、カウンターに置いた。
「お嬢さん。この手紙……誰に宛てた手紙なんだい?」
ディートリヒはなるべく少女を怖がらせない様に声色に気をつけながら、そう尋ねる。
宛先もわからない手紙を受け取る訳にはいかない。どんなに拙い手紙でも、きっちりと届けてやりたいからだ。
「おかあさま」
「ふむ……中を見ていいかい?」
無言で頷く少女。
そこには、お世辞にも綺麗とは言えない――しかし一生懸命書いたであろうことがよく解る字で、こう書かれていた。
おかあさまへ
わがままいってごめんなさい。
おべんきょうもします。すききらいもいいません。
いいこになるからかえってきてください。
アルフィーナ
それを読みながら、仕事ついでに探してやるか、と考え、
「侍女さん。この子の母親の名は、ご存知で?」
尋ねると、侍女は何か言いづらそうに少しだけ視線をそらし……
しかし、僅かな間の後、意を決したようにこちらを見て言う。
「……彼女の母親は、マルグリット・ノーレンと申します」
『ノーレン』
それは、ロイエでも有数の大商人の家の名。
金融を始めとして手広く商売をやっている、ノーレン商会の総元締め。
そして、『マルグリット』はその奥方の名前。
ディートリヒは、その名前を聞いた瞬間、全てを理解した。
真剣にこちらを見つめる少女の瞳。その真剣さの意味も。
だからこそ、ディートリヒは、精一杯の笑顔を浮かべ、
「わかった。バッチリ届けといてやるよ」
そう言って、大袈裟に胸を張ってみせた。
すると、少女はくりくりの目をぱっと見開き、
「ほんとうに!?」
「おう。信頼と安心のラッセン配達に任せなってんだ」
「ありがとう! おじさま!」
「…………」
素直に、心底嬉しげな笑顔を浮かべる少女と対照的に、何か言いたげに、やや陰った表情でこちらを見る侍女。
そんな侍女に、ディートリヒは笑顔を浮かべ、
「心配すんな。事情は解ったさ」
「申し訳ありません。ご迷惑をおかけします」
「気にすんなって……この金もお前さんのだろ」
そう言って手元にある銀貨を侍女に向かって差し出す。
「……お心遣い、痛み入ります」
侍女はそう言って自分の銀貨を受け取ると、
「ありがとうございました。それでは」
「おじさん、ありがとう!」
少女と侍女は手を繋ぎ、事務所を後にした。
「ふぅ……やれやれ」
姿が見えなくなることを確認すると、ディートリヒはそう言って、小さくため息。
そして、もう一度便箋を開き、複雑な表情でそれを見る。
「結局、どういう手紙だったんですか?」
「ああ……手紙の通りさ。遠くへ行ってしまった母へ、小さな子供が帰って来てくれと手紙を書いた、そういうことだ」
「ですが……結局それ、どここ届けるんです? あてはあるんですか?」
「どこにも届けねぇよ」
「……はい?」
「お前も聞いただろ? これはノーレン夫人宛だ」
「では、ノーレン家に届けては――」
「ヤーレン。二年前の『星の降る夜』で死者が出たって話は知ってるか?」
「……軽い噂程度になら」
「そうか。じゃあ、そのうちの一人が、とある大商人の奥方だった、ってのは?」
「まさか――」
「ああ。……亡くなったのは、ノーレン夫人だった」
「では、この手紙は……」
「母親が亡くなった事を、未だに受け入れられずに、子供なりに考えてのことだったんだろう」
まだあの年齢で、慣れないペンを握りながら、必死の思いで書いたのだろう。
紙とてそこまで安いものではない。きっと父親を説得して、譲ってもらったのだろう。
そして侍女の手を借りたとは言え、自分自身の手で、配達屋へ持ってきたのだ。
……たった、五歳の少女が。
「やりきれねぇよなぁ……俺も、あのくらいの娘がいるから、余計に辛い」
「親方……」
「なんて、感傷に浸ってても仕方ないな……仕事だ仕事。」
だが今日一日、ディートリヒの頭の中からは、この手紙のことが消えることはなかった。
*
日没と共に、ロイエの街は徐々に静けさを迎える。
日中は商人たちの呼び込みで騒がしかった通りも、片付けの音が去れば、ほとんど静寂に包まれる。
配達屋でもそれは同じ。
午後の配達から帰ってきたヴェルデルフェルパを迎え、送り主からの受領証を確認。
彼らが満足するまで褒めてやってから、待機組と合流させる。
そして、集荷所の一角、牧場区画で、ラッセン配達屋所属のヴェルデルフェルパが一堂に会した。
「これで全部揃ったな?」
「はい。今日は遠隔地での泊まりは居ません」
「よし」
弟子の言葉にディートリヒはそう言って頷くと、目算で手早く数えていく。
知能が高く、それなりに信頼関係を築いているとは言え、彼らの気まぐれな性分は変えられない。
どれだけ訓練をして、こちらが信頼していたとしても、ある日フラっといなくなることはままあるのだ。
最近だと、フカチュウが仕事中に行方不明になったときはさすがにディートリヒも焦った。
幸いながら結果的には手紙は届いていたと聞いた時には、心底ほっとしたものだ。
……郵便事故だけは、起こして欲しくないもんだ。
そう願いながら全てのヴェルデルフェルパが揃っているように、祈りながら数えるが――
「……44匹?」
あろうことか増えていた。
……おかしい。42匹のはずだ。
数え間違えを疑って一匹づつ点呼を取っていくことに。
「アルバ」
「きゅ」
「ニーリィ」
「きゅう?」
「カルア」
「きゅいー」
「リリム」
「きゅっきゅっ」
「ナナイ」
「きゅーっ」
……
…………
結果、やはり二匹ほど増えていた事が判明。
点呼にも反応せず、どうにも見覚えのない形のが二匹。
外見からの推測だが、おそらくラヴィとドリスが分裂したか、とため息。
「どうしたもんか……」
こういう場合、基本的に逃がすのがウチの流儀である。
仕事もないのに数を揃えても仕方がないし、その分面倒を見る手間もかかる上、集荷所で割り当てられた獣舎にはそれほど余裕があるわけではない。
だが……例外もある。
例えばそれは、優秀な個体からの分裂があったとき。
……ラヴィとドリスか。
ラヴィは一度自力でマモノから逃げ切った実績があり、ドリスは生真面目な性格で、先代からの古参でありながら無事故、行方不明ゼロを誇り、過去の分裂個体もそれぞれ優秀な実績を残している。
つまり、どちらも例外と言うに相応しい。エース級。
……仕方ない、な。
ディートリヒはため息を一つ。
それから、順に指を差していき、
「ラヴィとドリスと……増えたお前らニ匹は、明日からしばらく訓練だ」
「きゅ?」
「きゅう~」
「きゅうっ」
「きゅきゅー」
ヴェルデルフェルパの分裂の面倒なところは、それぞれ記憶を分けて分裂するというところだと、ディートリヒは常々思っている。
どういうわけか、一個体で持っていたはずの記憶が、二体でほぼバランスよく分かれてしまうのだ。
おかげで、仕事のやり方や経験も半分づつになっていることが多い。
結果として、
……仕事が倍になるわけだ。
今回は二匹が分裂したので、合計四匹。
二匹でも大変なのに、それが倍。
ディートリヒは頭を抱えて深いため息をもう一度。それからディートリヒは一番弟子の方を向いて、
「……アレックス。こいつらの訓練の間はしばらくは業務を任せるが、いいな?」
「はい」
一番弟子のアレックスはよどみなく頷く。
もう彼はほとんど業務については完璧だ。あとは、ディートリヒが引退し、親方に昇格するのを待つばかり。
アレックスの返事に、ディートリヒはうなずき、それから弟子たちを見渡し、
「では、本日の業務はこれにて終了だ。皆、ご苦労だったな」
「お疲れ様でした!」
ディートリヒの宣言に、弟子たちは一斉に声を揃えて挨拶を返す。
それが、いつもの彼らの解散の合図。
ディートリヒは、その挨拶を聞き届けてから、その場を離れる。
仕事が終わった開放感に浮かれる弟子たちの騒ぎ声を聞きながら、ディートリヒは集荷所を後にする。
そして、温かい夕食とともに自分の帰りを待っているであろう家族の元へ、ゆっくりと歩みを進めるのだった。
END
*******
以上、夕凪さんからでした!
本当にありがとうございました!
夕凪さんの文章は個人的に簡潔だけどわかりやすいと思うのですよ。
そして緻密な設定が下敷きにあるので
(実は郵便システム丸々考えていらっしゃった)
ぶれないというか、完成度が高いなぁ……と思います。
わざわざこんな設定しか載せてないようなサイトの文章を書いてくださって
本当に光栄なことだと思います。
夕凪さんありがとうございました!
あ、知らない単語とかいっぱい出てきててすみません(-_-;)
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